データのバックアップの必要性 #
最近のスマホはストレージの容量が増えてきている一方でカメラの進化によって画像や、動画のサイズが大きくなってきている。
Androidであればmicrosdに写真を保存することもできるが、容量、紛失、故障などを考えるとこれだけではバックアップとしては不十分だ。
家族や子供の写真、青春、仲間との思い出、旅行の写真、冠婚葬祭の写真、仮想通貨のクレデンシャル等の重要なデータは普段使用しているPCのHDD(ハードディスクドライブ)やスマホのストレージに保存しておくといつ紛失してもおかしくない。
スマホなんてトイレや風呂に落としただけで水没してジ・エンドといったパターンもある。
俺は石の上に落としたスマホの画面が映らなくなったのでNTT Doc●moにデータのバックアップ依頼を頼んだが何故か音沙汰が1年ぐらいない。
話がそれてしまったが、写真や動画に残った思い出は一度失ってしまったらもう永遠に戻ることはないということを伝えたかった。
定期的なバックアップは重要である。
そこでまず、バックアップの選択肢を考えることにした。
考えられるデータのバックアップの選択肢 #
クラウドストレージにバックアップするか、自宅等で自分で保管するかの二択があります。
順に詳細と利点、欠点を示します。
クラウドストレージ #
このデジタル時代、多くの人がまずクラウドストレージを検討するだろう。
よって、まずクラウドストレージについて解説していく。
クラウドに共通している利点、欠点 #
クラウドストレージの良い点 #
- 自分でデータを直接管理する必要がない
- スマホのアプリやデスクトップアプリが提供されている場合があるので、比較的簡単に操作できる
- 基本数十GBの容量まで基本無料の場合が多い
クラウドストレージの悪い点 #
- 一般的に容量が増えるほど金額が高くなる
- デスクトップアプリの同期機能等を誤った使い方をしたり、想定外の挙動でデータをロストしてしまうことがある
- クラウドを提供しているサービスに縛られる
- 長期的に考えると金がかなりかかる
- 有料プランを継続しなかった際や、サービス終了時に短期間でファイルが削除されたり、凍結されたりする場合があるのですばやくサルベージしなければならない
- プランの内容変更などでサービスの金額がアップしたり、容量が減る場合もある
クラウドストレージの代表サービス #
- 🔗iCloud
iPhone, iPad, mac等Apple製品からスムーズに使うことのできるクラウド。
50GBで月 130円
200GBで月 400円
2TB(2000GB)で月 1300円
- 🔗Yandex Disk
ロシアの有名検索エンジンYandex(🔗https://yandex.com/)が運営しているクラウド。
月1.37$(≒210円)で200GB
月2.5$(≒380円)で1TB
ファミリープラン
月3.92$(≒600円)で家族8人まで一人1TBの容量が割り当てられる。
全プランでアップロードの転送量は無制限だそうです。
Yandex DiskはYandex360
というサービスの一部なのでYandex Diskに加入するとYandex 360のカレンダー、ノート、オンラインビデオ通話等のアプリも使えます。
- 🔗Google Drive
おなじみ。
15GBぐらいまでなら無料。
🔗Megaや🔗DropBoxもありますが上のものと比べると高いですね。
クラウドストレージについての結論 #
サービスをこの先も使い続けたりする覚悟があり、十分に金があるなら良い。
1ヶ月400円で計算すると、1年で4800円。
基本的に永久保存するであろう写真などは20歳から70歳までの間の50年の料金を考えると、240000円。
その間に容量や金額変更がされない保証はない。
企業側がデータを紛失する可能性についてですが、大手のクラウドはデータを複数の地理的に離れたデータセンター内のサーバーに保管していることが多いので、ロストする確率は非常に低くなっています。
クラウドストレージを利用するのであれば、マイナーすぎるサービスは避けたほうが良いです。
GoogleDriveでデータのロストが発生、利用者に対して不誠実な対応をしているようです。
やはり、クラウドも信用しきってはいけませんね。
🔗Google calls Drive data loss “fixed,” locks forum threads saying otherwise
オフライン、自宅でバックアップ #
自宅でバックアップする際の選択肢を挙げていく。
SSD、USBメモリ、SDカード、microSDカード #
最近ではUSBメモリの価格が下がってきており、1500円ほどで64GB容量のものを購入することができます。
SSDの容量あたりの価格も登場当時に比べてかなり下がってきました。
SDカードに至っては、1000~2000円で128GBの容量のものを購入することができます。
そんな安価で写真を保存するぐらいには十分な容量のUSBメモリですが、データのバックアップとして使うにはいくつか問題があります。
実はこれらの製品は共通したデータの保管方法で実現されています。
NAND flash memory #
NAND flash memory
はnon volatile storage
と呼ばれるデータを保持するのに電源の供給が必要ないメモリです。
対して、私達のデスクトップPC内のメモリなどはDRAM(Dynamic Random Access Memory)
という方式でデータを保持しており、電源を切るとメモリの内容はなくなってしまいます。
NANDはデータの保持に電源が必要がないので持ち運びや一時的な保管に適しています。
SSD、USBメモリ、SDカード、microSDカードはこのNAND flash memoryを利用しています。
バックアップを目的とした際のNAND flash memory
の弱点
#
NANDではcell(セル)
と呼ばれる場所に情報を格納しています。
規格によって、1つのセルに格納する情報の量が異なります。
それに影響されて品質も変わってきます。
NANDの規格とその特徴一覧 #
規格 | セル1つ当たりの情報量 | 特徴 | セルの読み書きの耐久回数の目安 |
---|---|---|---|
SLC | 1bit | 最も高価。耐久性と読み書きの速度が最高。最大容量は大きい。 | 50,000~100,000回 |
MLC | 2bit | SLCとTLCの中間。 | 1,000~10,000回 |
TLC | 3bit | MLCとQLCの中間。 | 1,000~3,000回 |
QLC | 4bit | 最も安価。耐久性が低く、読み書きの速度も低い。最大容量は小さい。 | ~1,000回 |
SLC
はセル1つで1bitしか格納できないので出回っている商品を見ると、最大容量が他の規格より小さいです。
読み書きの耐久回数については最大容量や利用パターンなど様々な要因で変わってくるようです。
初めて知ったときは驚きました。
もっと長持ちするものだと思っていたからです。
bit(ビット) とは
bitとは0
か1
のことです。
つまり、1bitは0
, 1
2bitは00
, 01
, 10
, 11
の情報を表現することができます。
電荷の放出 #
NANDには読み書き耐久回数があるのは分かりました。
では、バックアップは頻繁に読み書きしないので、書き込んで読み込みをせずに保管しておけば良いのでは?
と考える方もいると思います。
しかしNANDには別の弱点があります。
情報の記録を担っている電荷が時間とともに徐々に放出されてしまう現象が発生するそうです。
特に温度が高いほど速くなるようです。
自分は専門知識がないので詳細を知りたい方はこちらを確認してください。
🔗Analysis of High-Temperature Data Retention in 3D Floating-Gate nand Flash Memory Arrays
G. Malavena, M. Giulianini, L. Chiavarone, A. S. Spinelli and C. Monzio Compagnoni, “Analysis of High-Temperature Data Retention in 3D Floating-Gate nand Flash Memory Arrays,” in IEEE Journal of the Electron Devices Society, vol. 11, pp. 524-530, 2023, doi: 10.1109/JEDS.2023.3320722.
よって長期間のバックアップには向いていません。
時々データ保持のために読み込みなどをするとしても回数に限度があるので適していないです。
HDD(ハードディスクドライブ) #
HDDは磁気でデータを記録しています。
その外観からは想像できないほど繊細な仕事を内部で行っているので取り扱いには注意が必要です。
自分はHDDを1回落としたことがあるのですが、見事に壊れてしまいました。
データレスキューの専門業者に頼めばデータを取り出せたかもしれませんが、重要なデータではなかったので諦めました。
HDD データの長期保存 #
先程説明した通り、HDDは磁気でデータを記録していますが、1年で1%ほどその磁気の力が失われてしまいます。
今回は、長期保存について考えているので、50年保管しておくとかなりの割合の磁気が失われているのでデータをいざ取り出そうと思ったときに読み出せないということもあるそうです。
これは、定期的にデータを書き直すことによって回避できます。
重要なデータをバックアップしたHDDは数年おきにで書き直しておきましょう。
データを一時場所に退避させて、HDDのファイルシステムを作り直してデータを書き込めば良いです。
ファイルシステムの崩壊も予防することができます。
また、磁気の近くでHDDを保管するのもNGです。
HDDは消耗品なので、普段遣いのHDDにデータをいれてバックアップした気になるのは危険です。
以上の理由で、HDDは管理コストが高いので、後述する他のバックアップ方法では扱いきれない量のデータをバックアップしたい場合に利用すると良いです。
光学ディスク(CD, DVD, Blu-ray Disc) #
光ディスクとも呼ばれます。
CD, DVD, BD等の光学ディスク(optical disc
)は光の反射の明暗を利用してデータを表現しています。
種類にもよりますが、CDは600~800MBぐらい、DVDは4.7GB~17GBぐらいのデータを記録できます。
BD(Blu-ray Disc)は更に多くのデータを記録できます。
CD, DVD #
ディスクの表面を光に当てたり、保管時の温度や湿度が適切でないと劣化が進みやすくなるようです。
100年ほど持つと言われたりしていますが、実際は適切に保管しても15年ほどで読み取れなくなったりする場合が多いそうです。
長期保管にはおすすめしません。
BD-R(Blu-ray Disc Recordable) #
BD-Rにはいくつか種類があるので、種類の違いを理解するための知識を解説します。
有機染料(organic dyes
)と無機染料(inorganic dyes
)とは
#
ディスク記録媒体はディスクをプレスしてそのディスクの表面上の窪みでレーザーを当てたときの反射光の明暗を操作することによって情報を記録する方法もありますが、 我々が自宅でデータを書き込む書き込み可能(Recordable)なディスクでは窪みの代わりに染料などで色を付けて明暗を操作します。
そういった書き込み可能なCD, DVD, BDはディスクはレーザーを当てることによってディスク内の層の色素が光によって変質するので、それによってデータを記録できます。
その色素が無機物であるか有機物であるかを指しています。
再書き込みを可能にする仕組みも解説されています。
🔗キヤノンサイエンスラボ(CDとDVD)
LTH BD-R と HTL BD-Rの違い #
BDにはLTH
と呼ばれるものと、HTL
と呼ばれるものがあります。
LTH
はLow To High
、HTL
はHigh To Low
からきています。
具体的にはHTL
ではディスクのデータが書き込まれていない箇所の色はデータが書き込まれる(焼かれる)ことによって元より暗い色(Low
)になるのでHigh To Low
と呼ばれています。
LTHはその逆です。
ただ、現在使われている全ての材質でそのようになるかどうかは分からないのでこれだけで判断はできないと思います。
HTLの特徴 #
HTLは無機染料を使用しています。
無機染料は光に強いので長期的なデータの保管に適しています。
LTHの特徴 #
LTHはCD, DVDの工場などの製造設備を使い回すことによってコスト削減しようとした企業が生み出した有機染料を使用したBD-Rです。
有機染料は光に弱く、長期保管の観点からは無機染料に劣ります。
当然、ユーザーにとっては好ましくありません。
M-DISC BD (Millennial Disc)について #
M-DiscはMillenniata, Inc
という会社の技術で、2023年11月現在は
Ritek(錸徳科技)
(🔗https://www.ritek.com/index)
と
Verbatim
(🔗https://www.verbatim.jp/, 🔗https://www.verbatim.com/global)
の2社しか製造のライセンスを有していない。
実質的にどこか他の会社が買い取ったか何かしたらしいが。
(Yours.coという会社らしい。
yours.co
にアクセスするとmdiscのサイトにリダイレクトされる。)
M-DISC & BD-Rの現状 #
M-DISCは1000年持つと宣伝されている。
M-DISCには こういった材料を使用してこれを満たせばM-DISCだ! という明確な定義、規格がないので光学ディスクのパワーユーザーの間では マーケティングのためのブランドでは? という声も上がっている。
Verbatimから売られているM-DISCがある時を堺に明確な断りなく中身を違うものに(恐らく BD-R HTL)して販売していることが発覚しており、Verbatimのサポートも認めている。
現在流通しているMDISCは最初は1000年持つと宣伝されていたが、現在では100年持つと宣伝されているものもあるようだ。
中身がBD-HTLであるにも関わらず、MDISCに明確な規格、定義がないことを悪用してBD-HTLをMDISCと称して販売されているケースもあるようだ。
しかも価格はMDISCの価格。
手元のMDISCが本物(?)かどうか見極める方法 #
先ほど説明したように、MDISCには明確な規格、定義がないので本物もクソもないのだが、初期の質の高そうなMDISCをモノホンのMDISCということにする。
- ディスク面がかすかに金色っぽい色をしている
- 最大書き込みスピードがx4
The M-Disc DVD and M-Disc BD-R are designed to be written at 4X speed.
🔗https://www.mdisc.com/faq.html
🔗archive - ディスクのIDが
MILLEN-MR1-000
自分が購入した日本向けのMDISCはディスク面がシルバーっぽかったのでBD-HTLだと思う。
商品説明に書き込みがx1~x6とあるし確実にモノホンではないだろう。
モノホンのMDISCであったところで、そもそも既存のBD-HTLよりその値段の価値があるほど優れているのか? という疑問もある。
参考として写真を載せておく。
俺はもうMDISCは規格がはっきりするなどの進展が無い限り買わない。
BD-HTLを利用する予定だ。
MDISC, BD-HTLの結論 #
今までCD, DVDで 1x ~ 1xx年持つ! みたいなことが言われていたが、多くのユーザーのディスクが保管方法の差はありつつも読み取れなくなってしまったという報告を目にしてきた。
よって100年持つなどという宣伝を鵜呑みにせずにMDISC、BD-HTLのどちらを使うにしても、定期的にデータを新しいディスクに移すことをおすすめする。
偽造品やすり替えの問題があるので、BDを利用する場合は焼く前に必ず 🔗BDのdisc id、書き込み速度、HTL or LTH リスト を参照してチェックしておきましょう。
参考: 🔗ISO-IEC-10995-2008 Preview
まあ、テストと実際の劣化の具合には大きな差がありそうだが。
自宅でバックアップについての結論 #
ストレージは高いので大事なデータのみをバックアップしましょう。
ほとんど閲覧することのないデータは容量が余程大きくない限り、BD-R(HTL)で保管するのがおすすめ。
破損や劣化に備えてディスクは同じ内容のものを複製しておきましょう。
保険としてクラウドを利用するのもアリです。
ディスクの保管方法など。
おまけ: Backblaze #
クラウドにバックアップすることを考えた際に、データを滅多にダウンロードしない前提であれば最も安価なのは🔗Backblazeです。
様々な大企業から利用されており、業界での知名度、信頼度が高いです。
SynologyやQNapなどのNASからバックアップする方法が提供されているのも魅力的です。
自前のバックアップだけでは不安な方はこちらを利用しましょう。
一般消費者向けではない気がしますが。
AWS S3 Glacier Deep Archive
も一応検討しておくと良いです。
おまけ: テープ #
テープと聞くとカセットテープ(若い方は聞いたことないかもしれませんが)みたいなもの想像すると思いますが、ここでいうテープとは磁気テープと呼ばれるものです。
テープドライブが高価なため初期投資にお金がかかりますが、本当に大量のデータを保管する場合はHDDなどよりもコストが低いです。
ランダムアクセスできないなどの欠点もあります。
気になる方は
🔗LTOテープストレージとは?(富士フィルム)
🔗LTOとは?基本的な知識や特徴とメリット・デメリットをご紹介(Panasonic)
を参照してください。