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ベクトル空間の基底と基底の間の関係

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数学 線形代数 ベクトル空間 基底 正則行列 行列 一次結合
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ベクトル空間の基底と基底の間の関係
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ベクトル空間の基底のとり方はたくさんある。

例えば、ベクトル空間\(\Reals^3\)には $$ \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix}, \space \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix}, \space \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} $$ という基底が存在する。

そして、この基底のそれぞれのベクトルを適当にスカラー倍したものも基底になることが分かる。

そこで、ベクトル空間の基底と別の基底の間にはなにか関係があるのだろうかという疑問がうかんでくる。

2つの基底と正則行列
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ベクトル空間\(V\)の1組の基底を\(\bm{v}_1, \space \dots, \space \bm{v}_n\)とする。

いま、\(V\)の別のベクトルの組\(\bm{w}_1, \space \dots, \space \bm{w}_n\)が基底だとすると\(V\)のベクトルは基底の一次結合で一意的に表されるので、 $$ \bm{v}_i = \sum_{k=1}^n a_{ki} \bm{w}_k \space \space (i = 1, \space \dots, \space n) \qquad (A) $$ となる。

同様に、 $$ \bm{w}_j = \sum_{i=1}^n b_{ij} \bm{v}_i \space \space (j = 1, \space \dots, \space n) \qquad (B) $$ であり、\((A)\)を代入することで、 $$ \bm{w}_j = \sum_{i=1}^n b_{ij} ( \sum_{k=1}^n a_{ki} \bm{w}_k ) \\ = \sum_{k=1}^n ( \sum_{i=1}^n a_{ki} b_{ij}) \bm{w}_k $$ となる。

最後の行に着目すると、 $$ \sum_{i=1}^n a_{ki} b_{ij} $$ は計算するとスカラーになるので、結局 $$ \sum_{k=1}^n p \bm{w}_k $$ のような形になることがわかる。

\(\bm{w}_j\)の表現の一意性から、これが\(\bm{w}_j\)に一致するはずなので、 $$ \sum_{i=1}^n a_{ki} b_{ij} = \delta_{kj} $$ となることがわかる。(\(\delta\)はクロネッカーのデルタ。)

つまり、\(k=j\)のときのみ $$ \sum_{i=1}^n a_{ki} b_{ij} = 1 $$ それ以外の場合(\(k \neq j\))は $$ \sum_{i=1}^n a_{ki} b_{ij} = 0 $$ になるということだ。

ここで、\(A = (a_{ki}), \space B = (b_{ij})\)という行列を考えると、\(A B = E\)となることがわかる。(\(E\)は単位行列。)

なぜなら、式を展開してみると、 $$ \bm{w}_j = \sum_{k=1}^n ( \sum_{i=1}^n a_{ki} b_{ij}) \bm{w}_k \\ = (a_{11} b_{1j} + a_{12} b_{2j} + \dots + a_{1n} b_{nj}) \bm{w}_1 \\ + (a_{21} b_{1j} + a_{22} b_{2j} + \dots + a_{2n} b_{nj}) \bm{w}_2 \\ \vdots \\ + (a_{n1} b_{1j} + a_{n2} b_{2j} + \dots + a_{nn} b_{nj}) \bm{w}_n $$ となり、\(j\)が\(1 \dots n\)を動くので、例えば\(j=1\)だと、

$$ \bm{w}_1 = (a_{11} b_{11} + a_{12} b_{21} + \dots + a_{1n} b_{n1}) \bm{w}_1 \\ + (a_{21} b_{11} + a_{22} b_{21} + \dots + a_{2n} b_{n1}) \bm{w}_2 \\ \vdots \\ + (a_{n1} b_{11} + a_{n2} b_{21} + \dots + a_{nn} b_{n1}) \bm{w}_n $$ となり、\(j=2\)だと、 $$ \bm{w}_2 = (a_{11} b_{12} + a_{12} b_{22} + \dots + a_{1n} b_{n2}) \bm{w}_1 \\ + (a_{21} b_{12} + a_{22} b_{22} + \dots + a_{2n} b_{n2}) \bm{w}_2 \\ \vdots \\ + (a_{n1} b_{12} + a_{n2} b_{22} + \dots + a_{nn} b_{n2}) \bm{w}_n $$ となるので、各々の\(\bm{w}_{j}\)の両辺が一致するためには $$ (a_{11} b_{11} + a_{12} b_{21} + \dots + a_{1n} b_{n1}) = 1 \\ (a_{21} b_{12} + a_{22} b_{22} + \dots + a_{2n} b_{n2}) = 1 \\ \vdots \\ (a_{n1} b_{1n} + a_{n2} b_{2n} + \dots + a_{nn} b_{nn}) = 1 $$ となり、その他の行は\(0\)にならなければならない。

よく見ると、この条件の各行は\(A\)の\(n\)行目のベクトルと\(B\)の\(n\)列目のベクトルの積(内積)になっているので、\(A B = E\)という関係が浮かび上がる。

同様の議論で\(BA = E\)も示されるので、\(B\)は正則である。

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逆に、 $$ \bm{w}_j = \sum_{i=1}^n b_{ij} \bm{v}_i \space \space (j = 1, \space \dots, \space n) $$ としたとき、\(B=(b_{ij})\)が正則と仮定して\(\bm{w}_{1}, \space \dots, \bm{w}_{n}\)が基底になることを示す。

仮定より、\(B\)の逆行列\(B^{-1}=A(a_{jk})\)が存在して、 $$ \sum_{j=1}^n a_{jk} \bm{w}_{j} = \sum_{j=1}^n a_{jk} \sum_{i=1}^n b_{ij} \bm{v}_i \\ = \sum_{i=1}^n (\sum_{j=1}^n b_{ij} a_{jk}) \bm{v}_i = \sum_{i=1}^n \delta_{ik} \bm{v}_{i} = \bm{v}_{k} $$ (2重\(\sum\)は添字と式によっては順序を入れ替えることができることを利用。)

補足: なぜクロネッカーのデルタが出てくるのか(クリックで展開)

$$ \sum_{j=1}^n b_{ij} a_{jk} $$ に着目すると、これは\(B\)の\(i\)行目の行ベクトルと\(A\)の\(k\)列目の列ベクトルの積(内積)であり、\(BA=E\)なので、行ベクトルと列ベクトルの結果は\(i=k\)のとき\(1\)、\(i \neq k\)のとき\(0\)になる。

となり、各\(\bm{v}_{k}\)が\(\bm{w}_{1}, \space \dots, \bm{w}_{n}\)の一次結合で表されるので、\(\bm{w}_{1}, \space \dots, \bm{w}_{n}\)は\(V\)を生成することがわかる。
\(n = dim \space V\)なので、\(\bm{w}_{1}, \space \dots, \bm{w}_{n}\)は\(V\)の基底である。

これが何を意味しているのか
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証明されたことを整理して解釈しよう。

ベクトル空間\(V\)の2組の基底\(\bm{v}_1, \space \dots , \space \bm{v}_n \)と\(\bm{w}_1, \space \dots , \space \bm{w}_n \)の間には、 $$ \bm{w}_j = \sum_{i=1}^{n} p_{ij} \bm{v}_i \quad (j = 1,\space \dots, \space n) $$ という関係を考えることができて、そこから\(P=(p_{ij})\)という行列を考えると、\(P\)は正則行列になるというのが証明された事実だった。

上式の関係はまとめて $$ \bm{w}_1, \space \dots , \space \bm{w}_n = (\bm{v}_1, \space \dots , \space \bm{v}_n )P $$ と表すことができる。

この正則行列\(P\)は基底の間の変換の行列とよばれる。

成分ベクトルの間の変換の式、変換の行列
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ところで、ベクトル空間\(V\)の任意のベクトル\(\bm{v} \in V\)は\(V\)の2組の基底\(\bm{v}_1, \space \dots , \space \bm{v}_n \)と\(\bm{w}_1, \space \dots , \space \bm{w}_n \)と適当なスカラー\(x_i, \space y_i\)で $$ \bm{v} = (\bm{v}_1, \space \dots , \space \bm{v}_n) \begin{pmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} \qquad (p) \\ \bm{v} = (\bm{w}_1, \space \dots , \space \bm{w}_n) \begin{pmatrix} y_1 \\ \vdots \\ y_n \end{pmatrix} \qquad (q) $$ と表すことができる。

ここで、先程証明されたとおり、2組の基底の間には正則行列\(P\)が存在して $$ \bm{w}_1, \space \dots , \space \bm{w}_n = (\bm{v}_1, \space \dots , \space \bm{v}_n )P $$ である。

この関係と\((q)\)より、 $$ \bm{v} = (\bm{v}_1, \space \dots , \space \bm{v}_n ) P \begin{pmatrix} y_1 \\ \vdots \\ y_n \end{pmatrix} $$ となり、\((p)\)より、 $$ (\bm{v}_1, \space \dots , \space \bm{v}_n) \begin{pmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} = (\bm{v}_1, \space \dots , \space \bm{v}_n ) P \begin{pmatrix} y_1 \\ \vdots \\ y_n \end{pmatrix} \\ \begin{pmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} = P \begin{pmatrix} y_1 \\ \vdots \\ y_n \end{pmatrix} \qquad (r) $$

とベクトル\(\bm{v} \in V\)を2つの基底で別々に(一次結合して)表したときの、それぞれの成分ベクトルの間にも\(P\)という関係があることが分かる。

\((r)\)を変換の式という。

まとめ
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ベクトル空間\(V\)の2つ基底の間の関係は正則行列(変換の行列)で表現することができる。

そして、\(V\)のあるベクトルを2つの基底の一次結合でそれぞれ別に表した際、それぞれの成分ベクトルの間の関係も変換の行列で表すことができる。

編集後記
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もう少しでなにか分かりそうな気がしたがなんのことか忘れてしまった。

  • 2024-07-19: まとめを追加、微修正

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すげえよ。