動機 #
線形変換と直和関連で必要になったので。
疑問 #
適切な型の行列\(A,\space B, \space C\)を考える。
\(A,\space C\)が具体的な値に固定されている(成分が定数)とき、
$$
AB=C
$$
が成立すると仮定すると、\(B\)は常に一意に定まるのか?
実数であれば $$ xy=z \\ y = z/x $$ とできるが、行列ではどうだろうか?
答え #
まず、結論から述べると少なくとも常に一意ではない。
\(A\)が正則行列である場合は、\(AA^{-1}=A^{-1}A=E\)を満たす逆行列\(A^{-1}\)が存在して、 $$ AB = C \\ A^{-1}AB=A^{-1}C \\ B=A^{-1}C $$ となり、\(A, \space C\)は固定されているので、\(B\)が一意に定まる。
逆行列は存在する場合、必ず一意に定まるので\(A^{-1}\)は一意。
🔗逆行列の一意性
それ以外の場合は例えば $$ A= \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} \\ C = \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} $$ の場合を考えると $$ AB =C \\ \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} \\ \begin{pmatrix} a & b \\ 0 & 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} $$
となり、\(a=1,\space b=1\)かつ\(c,\space d\)は任意の値なので \(B\)として考えられるものは $$ \{ \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ x & y \end{pmatrix} | \space \forall x,\space y \in R \} $$ と無数にあることがわかる。
零行列、\(AB=O\) #
実数で\(ab=c\)、例えば
$$
a \cdot 43 = 0
$$
と積の結果が\(0\)になるときは、\(ab=0\)の\(a,\space b\)のどちらかが必ず\(0\)になることが知られているが、行列の積
$$
AB=O
$$
では\(A=O\)もしくは\(B=O\)とは限らない。
\(A \neq O,\space B \neq O\)の場合もある。
例えば $$ \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} =\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} $$ という等式を考えると、 $$ \begin{pmatrix} ax + by \\ cx + dy \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} $$ なので、等式を満たすには $$ ax = -by \\ cx = -dy $$ を満たせばよいことがわかる。
よって積の結果\(AB\)が零行列であっても、\(A, \space B\)は零行列とは限らないことがわかる。
$$ \begin{pmatrix} 2 & -2 \\ 7 & - 7 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} $$ などが具体例である。
編集後記 #
$$ AB=C $$ の\(C\)が正則であるとき、 $$ (AB)^{-1} = C^{-1} \\ B^{-1}A^{-1} = C^{-1} \\ A^{-1} = B C^{-1} \\ $$ と変形することができて、\(A\)に逆行列が存在することがわかるので、上述したように\(B\)は一意に定まる。
$$ AB=C $$ の\(C\)が正則ということは、\(B, \space A\)に対応する線形写像の合成が全単射であることを示すので、\(A, \space B\)は正則である。
\(A\)が正則でない場合でも\(B\)が一意に定まる場合はあるのかどうかについては少し考えたが分からなかったのでそのうち考えたい。(TODO)